本棚を整理していたらある文庫本が出てきました。
長野まゆみ著の「テレヴィジョン・シティ」です。
長野まゆみ作品は学生の頃とてもハマっていて図書館で借りてひたすら読みました。
その中でもこの「テレヴィジョン・シティ」は一番好きでお小遣いで買い、繰り返し読んだ作品になります。
大人になり引越しをする度に本棚の整理を行い、徐々に電子書籍に移行しつつある今でも未だに紙の本として手元に置いている程思い入れのある作品。
そういえばしばらく読んでなかったな、10年くらいは開いてなかったかも。
そう思って久々に読み返す事にしました。
「テレヴィジョン・シティ」はとても謎の多い作品です。
簡単なあらすじとしては、
〈鐶(わ)の星〉と呼ばれる人工的なビルディング。そこで生活する《生徒》の少年アナナスとルームメイトの少年イーイーとともに衣食住など全てが管理された日々を送っている。〈鐶の星〉から十五億キロ離れて存在するという《碧い惑星》に憧れを抱くアナナス。物語が進むにつれて、完璧に思われたビルディングは次第に崩壊していく。少年らはビルディングから脱出を試みるが…
彼らがいる〈鐶の星〉は何のためにそこにあるのか、なぜ彼らはそこにいるのか。
何も答えは語られる事はなく物語は終わります。
でも子供の頃は理解できなかった意味も、もしかしたら大人になった今なら理解できるかもしれない…そう思って読み返しましたが、やはり物語の中には答えはなく、謎は謎のままでした。
大人になって読んでも、わからない部分はわからないままだった。
それでも、 初めて読んだ時と印象が変わったな、と思う部分もありました。
作品に時代が科学的に近づいている
初めて読んだ時と印象が変わったな、と思う部分。
それは、初めてこの作品を読んだ当時より、時代が科学的に近づいたところです。
まるでスマホやタブレットのように扱える1人一台の携帯できるコンピュウタ端末。
VRのようなロケットシミュレエション。
初めて読んだ頃にはスマホもVRもまだ存在すらしなかった時代だったので、
このテレヴィジョン・シティはとても未来の話だと思っていました。
それが当たり前の時代になって…
近未来的な不思議な感覚は薄れたようにも感じますが、私は現実が近づいたことで
この話がファンタジーではないのかもしれない、という別な不思議な感覚になりました。
もしかしたらこの先、アナナス達の住む〈鐶の星〉のビルディングのように全てが管理される時代がやってくるかもしれない…
それが冗談ではなく、もしかしたらあり得る未来だと思えてしまう。
時代が変わると小説の感想も変わってくるんだな、と改めて感じました。
何度もあの夏を繰り返す
ラストで主人公のアナナスの時間は、8月の下旬から冒頭の時間軸に2ヶ月半戻ります。
そうしてアナナスはまた夏を過ごすことになるのでしょう。
でもその夏にはイーイーはいません。
あんなに憧れていた碧い惑星への気持ちもイーイーのことも忘れてしまって。
イーイーは一人、碧い惑星の砂浜にいて。
それの意味するところは答えが描かれていないのでわかりません。
イーイーのスピリットは〈鐶の星〉ビルディングから脱出できた、という事なんでしょうか。
この話では「脱出」がある意味「救い」として描かれていると思うのですが、イーイーは救われたのか。
たとえイーイーが救われてたとしても、アナナスはもうイーイーのいない夏を過ごすのです。
子供の頃何度も読んで涙したラストなのに、読み返した今も、大人になった今もめちゃくちゃ新鮮に泣きました。
この小説を読むたびに、私は何度もイーイーのいた夏を繰り返し思い出して泣くんだなあ…。
イーイーがアナナスに出した最初で最後の手紙に書いてあった「ことばは消えても文字は残る」
意味は違うかもしれませんが、この小説が文字として残る限り、
私はその文字を追うと何度もイーイーのいた夏を思い出すんだと思います。
きっと10年後もおばあちゃんになってもそうなんだろうな。